男がすーッ玄関の襖の裏に消えると、台所から四畳半を通って、妾が六畳間に現れたのだ。長火鉢の前に坐った妾は、膝に猫を抱き上げて、背中を擦ったり喉を掻いてやったりしている。しばらくすると、猫を畳におろし、立って台所に消えた。どうやら煮物でもしているらしい。女が消えると同時に男が六畳間にもどった。
猫が頭を上げて男を見、男も猫を見た。
ー野口卓「闇の黒猫」(北町奉行朽木組)から抜粋ー
挿絵の練習、2枚目です。
野口卓は「軍鶏侍」でデビューした作家で、無駄のない清冽な文章が気に入っています。『獺祭」は軍鶏侍シリーズですが特に秀逸。
この本も「北町奉行朽木組」シリーズの1冊目です。今、2冊めも手元にあり、読むのが楽しみです。
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